目次
はじめに
「退職したい」と伝えたのに、会社から「今は人手が足りないからもう少し待ってほしい」と言われてしまった。そんな状況で悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
「人手不足を理由に辞めさせてもらえないの?」
「会社が認めないと退職できないの?」
「このまま働き続けないといけないの?」
このような不安や疑問を感じている方もいると思います。
実際、職場によっては「後任が決まるまで待ってほしい」「繁忙期が終わるまでいてほしい」と引き止められることがあります。そのため、退職を伝えたのに話が進まず、「本当に辞められるのだろうか」と不安になってしまう方も少なくありません。
ただ、人手不足という理由だけで退職ができなくなるわけではありません。会社の事情と退職のルールは別の問題として考えられるため、正しい仕組みを知っておくことが大切です。
この記事では、退職を人手不足を理由に引き伸ばされた場合にどうなるのか、会社が辞めさせないと言ったときにどう考えればよいのかを、順を追ってわかりやすく解説していきます。
人手不足を理由に退職を引き伸ばされても辞められる?

会社が人手不足の状態でも、退職するかどうかを決める権利は労働者本人にあります。
「人が足りないからもう少し待ってほしい」「引き継ぎが終わるまで辞めないでほしい」と言われることはありますが、それだけで退職できなくなるわけではありません。
ここでは、退職の判断を誰が決めるのかという基本的な考え方と、会社が退職を拒否できるのかどうかについて整理します。
退職は労働者の意思で決められる
民法第627条では、期間の定めのない雇用契約の場合、労働者が退職の意思を会社に伝えた日から14日経過すれば契約は終了すると定められています。
そのため、たとえば4月1日に「4月15日で退職します」と退職の意思を会社に伝えた場合、会社が人手不足を理由に「もう少し残ってほしい」と言っても、4月15日を過ぎれば労働契約は終了します。
退職は会社の許可で決まるものではなく、労働者が退職日を決めて意思を伝えることで成立します。
会社が人手不足であっても、労働者が決めた退職日を会社が一方的に延ばすことはできません。
会社は退職を拒否することはできない
期間の定めのない雇用契約では、労働者が退職の意思を会社に伝えてから14日経過すると、民法第627条に基づいて雇用契約は終了します。
そのため、会社が「人手が足りない」「後任が決まるまで残ってほしい」と伝えても、退職そのものを拒否することはできません。
労働者が退職日を決めて退職の意思を伝えた場合、会社はその退職を取り消したり、退職を認めないという判断をすることはできません。
会社が人手不足を理由に退職を引き止める主な理由

会社が人手不足のときに退職を申し出ると、「もう少し待ってほしい」と引き止められることがあります。これは法律上の理由というより、業務を回すうえで会社側に都合があるためです。
ここでは、会社が人手不足を理由に退職を引き止めるときによくある具体的な理由を整理します。
後任が決まっていない
会社が退職を引き止める理由として多いのが、退職者の業務を引き継ぐ後任が決まっていない状況です。
1人が担当していた業務がすぐに代わりの担当者へ移せない場合、退職すると業務が止まる可能性があるため、会社は退職時期を延ばしてほしいと伝えることがあります。
後任の採用や社内での担当変更が完了していない状態では、業務の空白が生まれるため、その期間を埋める目的で退職を待ってほしいと引き止めることがあります。
引き継ぎが終わっていない
退職者が担当していた業務の引き継ぎが完了していない場合、会社は退職時期を延ばしてほしいと引き止めることがあります。
担当していた取引先対応、社内システムの操作手順、進行中の案件の状況などが次の担当者に共有されていない状態で退職すると、業務の内容を把握できる人がいなくなるためです。
そのため、業務内容の説明や資料作成、後任への説明が終わるまで残ってほしいという理由で、退職を待ってほしいと伝えられることがあります。
繁忙期で人手が足りない
会社の業務量が一時的に増える繁忙期に退職が重なると、必要な人数を確保できなくなるため、会社は退職時期を延ばしてほしいと引き止めることがあります。
繁忙期は通常よりも業務量が増え、1人あたりの担当件数や作業時間が増えるため、その時期に退職者が出ると残った社員の業務負担が増えるからです。
そのため、繁忙期が終わるまで残ってほしいという理由で、退職を待ってほしいと会社から伝えられることがあります。
人手不足を理由にした退職の引き止めに応じる必要はある?

退職を申し出たときに、「人手不足だからもう少し残ってほしい」と会社から引き止められることがあります。業務の状況によって相談されることはありますが、そのお願いに必ず応じなければならないわけではありません。
ここでは、退職の意思を伝えた場合に法律上どう扱われるのか、また会社の都合だけで退職時期を延ばすことができるのかについて確認していきます。
退職の意思を伝えれば原則として退職できる
期間の定めのない雇用契約の場合、労働者が退職の意思を会社に伝えてから14日が経過すると、民法第627条に基づいて雇用契約は終了します。
たとえば5月1日に「5月15日で退職します」と会社に伝えた場合、会社が人手不足を理由に引き止めても、5月15日を過ぎれば退職は成立します。
そのため、人手不足を理由に退職を待ってほしいと伝えられても、退職の意思を会社に伝えていれば、原則として退職することができます。
会社の都合だけで退職を延期させることはできない
期間の定めのない雇用契約では、労働者が退職の意思を会社に伝えてから14日が経過すると、民法第627条に基づいて雇用契約は終了します。
そのため、会社が人手不足や業務の都合を理由に「もう1か月残ってほしい」「後任が決まるまで退職を待ってほしい」と伝えても、会社の判断だけで退職日を延ばすことはできません。
労働者が退職日を決めて退職の意思を伝えた場合、その日程を会社の都合だけで延期させることはできません。
人手不足の職場でよくある退職引き止めのケース

人手不足の職場で退職を申し出ると、すぐに辞めることを前提に話が進むとは限りません。上司や会社から「今辞められると困る」と言われ、さまざまな理由で退職を引き止められる場面があります。
ここでは、人手不足の職場で実際によく見られる退職引き止めの具体的なケースを整理します。
後任が見つかるまで待ってほしいと言われる
退職の意思を伝えたときに、「後任が決まるまで残ってほしい」と会社から退職時期の延期を求められることがあります。
会社が求人募集を出していない、または採用面接を行っていても採用が決まっていない状態では、退職者の業務を引き継ぐ人がいないためです。
そのため、後任の採用が決まるまで退職を待ってほしいという理由で、退職日を延ばしてほしいと伝えられることがあります。
繁忙期が終わるまで残ってほしいと言われる
退職の意思を伝えたときに、「繁忙期が終わるまで残ってほしい」と会社から退職時期の延期を求められることがあります。
年末商戦や決算月など業務量が増える時期は、通常よりも作業件数や対応件数が増えるため、その時期に退職者が出ると必要な人数を確保できなくなるためです。
そのため、繁忙期の業務が落ち着く時期まで退職を待ってほしいという理由で、退職日を延ばしてほしいと伝えられることがあります。
会社に損害が出ると言われて退職を止められる
退職の意思を伝えたときに、「今辞めると会社に損害が出る」と言われて退職を止められることがあります。
担当している取引先との契約対応、進行中の案件の納期対応、社内業務の担当者変更などが完了していない状態で退職すると、会社の業務に影響が出ると会社が判断するためです。
そのため、退職すると会社に損害が出る可能性があるという理由で、退職を考え直すように伝えられることがあります。
退職を引き伸ばされたときの基本的な対応方法

退職を申し出たあとに、人手不足などを理由として退職時期を先延ばしにされることがあります。そのまま曖昧な状態にしてしまうと、退職の話が進まず、退職日が決まらないまま時間だけが過ぎてしまうこともあります。
ここでは、退職を引き伸ばされたときにどのように対応すればよいのか、基本的な行動の進め方を整理します。
退職日を明確に伝える
退職の意思を伝えるときは、「○月○日を最終出勤日として退職します」と日付を具体的に示して伝えます。
退職時期を「近いうちに辞めます」「来月くらいに退職したいです」と曖昧に伝えると、会社が退職日を後ろにずらそうとする可能性があるためです。
退職日を年月日まで明確に示して伝えることで、会社が退職時期を延ばす判断をしにくくなります。
退職届を提出して意思をはっきり示す
退職を引き止められている場合は、退職日を記載した退職届を会社に提出して退職の意思を明確に示します。
口頭だけで退職の意思を伝えていると、会社が「正式には聞いていない」と判断して退職手続きを進めない可能性があるためです。
退職届に「○年○月○日をもって退職します」と退職日を記載して提出することで、退職の意思と退職日を会社に明確に伝えることができます。
引き継ぎの範囲を整理して伝える
退職日までに対応できる引き継ぎの範囲を整理し、具体的な内容を会社に伝えます。
担当している業務の内容、進行中の案件の状況、取引先の連絡先、社内システムの操作手順などを整理し、退職日までに説明できる範囲を示します。
退職日までに実施できる引き継ぎ内容を明確に伝えることで、退職時期を延ばすよう求められる状況を避けやすくなります。
それでも退職できない場合の相談先

退職の意思を伝えても強く引き止められたり、退職届を受け取ってもらえないなど、話し合いだけでは解決しない場合もあります。自分だけで対応しようとすると精神的な負担が大きくなるため、第三者に相談して状況を整理することが大切です。
ここでは、退職を認めてもらえない場合に相談できる主な窓口について紹介します。
労働基準監督署
退職の意思を伝えているのに退職手続きを進めてもらえない場合は、会社の所在地を管轄する労働基準監督署に相談します。
労働基準監督署の窓口で、退職の意思を伝えた日付、会社からどのように退職を止められているか、退職日として伝えている日付を説明して相談します。
相談内容に応じて、労働基準監督署が労働関係の法律に基づく対応方法について説明を行います。
弁護士などの専門家
退職の意思を伝えても会社が退職手続きを進めない場合は、弁護士などの専門家に相談します。
弁護士に、退職の意思を会社に伝えた日付、退職日として伝えている日付、会社からどのような理由で退職を止められているかを具体的に説明して相談します。
弁護士が内容を確認したうえで、会社への通知書の作成や法的な手続きについて対応方法を示します。
まとめ
人手不足を理由に退職を引き止められるケースは多くありますが、退職するかどうかは労働者自身が決めることができます。
会社が「後任が決まっていない」「繁忙期が終わっていない」などの理由で退職時期を延ばしてほしいと伝えることはありますが、会社の都合だけで退職を認めないという判断をすることはできません。
退職を引き伸ばされた場合は、退職日を具体的な年月日で伝え、退職届を提出して意思を明確に示すことが重要です。
また、退職日までに対応できる引き継ぎの範囲を整理して伝えることで、退職時期を巡るトラブルを防ぎやすくなります。
それでも会社が退職を認めない場合は、労働基準監督署や弁護士などの専門家に相談し、法律に基づいた対応を検討することが必要です。